今日、青山ブックセンターのS原さんから連絡があり、親会社の洋販が倒産したという話だった。内輪では1年ほど前から噂もあったし、支払いが遅れる事が多かったのであまり驚く事ではありませんでした。民事再生手続の説明会もFAXで来ました。洋販は再生は難しいと思いますが、青山ブックセンターは新しいスポンサー(皮肉にも中古本販売のブックオフ)を見つけ、営業は継続して続けられるそうです。
ウチは買取契約なため、最近は大きなオーダーが無かったので被害額も少なく(ゆくゆくは回収出来ることもあり)あんまり深刻でもなく、どちらかというと気の毒な気持ちです。
同じ洋書の取次でもあったタトル商会も潰れてしまい、洋書販売はかなり厳しくなっているのが現状です。ヨーロッパのユーロ高の影響や、Amazonなんかの格安販売ルートの拡大、そして何よりも洋書離れが圧倒的に大きいでしょうね。
これは、洋書に限ったことではありません。世の中の書店は激減しているし、出版社も休刊ならいい方で、廃業なんていうところも出ています。
業界じゃない人はあまり知らないと思いますが、書店に置かれている本は高掛率で委託販売されています。売れなかったら出版社に返本することが出来ますが、そのかわり売れてもほとんど利益がありません。出版社の方は返本されたら返金しなきゃならないので、新しい本を送って相殺します。やたらと新しい本が次々に出る出版社はこの部分で切羽詰まっている事が多いので、巷では「そろそろかな」と言われる事がおおいです。
そもそも、書店って儲かんないんですよね。だって、本が並んでない本屋なんて無いですよね?棚を埋める在庫を持っていなきゃならない。お店を最初に作る時にまず何百万円分かこの棚に並べる本を買う事になりますが、いざ営業が始まると雑誌や新刊は毎度仕入れなきゃならないから、いつまでたっても最初の投資した分を回収する事が出来ない。コンビニも同様です。
そして、出版社と書店の仲介をする問屋のような役割が取次。これは日本独特の流通のシステムで、江戸時代の浮世絵の流通がそのルーツだそうです。この取次もここ最近は存亡の危機に立たされている。以前相談を受けたのですが、全国の書店ルートを持っている取次が、書籍が激減しているため、そのルートを使って文具や雑貨を配荷しようと営業内容を徐々にシフトしたいと思っている。それでも、書店はどんどん激減しているので、生き残りはかなり難しいでしょう。
出版社だってかなり厳しい状況。そしてここ最近、雑誌を中心に本のあり方が変わってきています。素人による雑誌が増えているのに気づきませんか?
例えばカメラ雑誌。今、女の子をターゲットにした雑誌が増えています。
先日、
BluemarkのK地さんと打ち合わせをした際に、彼はこういった素人媒体の多発を批判的に考えていました。僕も全部が全部ではないのですがかなり批判的な方です。
そもそもこういう雑誌は素人の自己表現の居場所探しから生み出されてきました。自分の存在をアピールしたい。こういう人はとても多いと思います。というか、こういう人が多いからニーズによって雑誌が登場するのでしょう。それ自体が悪いわけではないと思います。僕が危惧しているのはプロがアマチュアをどんどん起用してしまうこと。
多くのアマチュアは自己表現が最終目的。誰かにかわいいねとか綺麗だねとか言われたらそれでいい。でもそのほとんどの表現はプロのコピーキャットでしかない事が多い。
プロにはプロのコンセプトや思想がしっかりあって、それを目的に表現している。
僕もプロなんて大きな声で言えた身分じゃないけど、少なくとも何を表現したいか、すべての表現に一貫した思想をもっているつもりです。
特に多いと思うのが自称作家でしょう。昨今では携帯小説なんかのようなのが増えている。もちろん時代を捉えているだろうし、売れるんだから出版社も飛びつくでしょう。でも、僕はかなりカンフル剤のような感じを拭えない。だからこのブームが下火になったら潰れてしまう出版社も出てくるだろうと思う。
自称ジャーナリストや自称ライターなんてのもあるだろう。目の前で殺人事件が起れば皆、携帯カメラを使って自称ジャーナリストになっていく。事実を伝える事も重要だけど、プロでなければ客観性、批判的主観性の表現は難しいだろうと思います。
ブログという表現の場も多くの自称ライターを生んできました。でも、最も深刻なのはその信憑性です。ブログの世界では嘘も真実も同次元で語られていて、そしてそれを真に受けて本当と思ってしまう人も少なく無い。もちろん、印刷物で刷られている世界にも虚言はある。でも、ゴシップ週刊誌だったら信憑性00%、新聞だったら00%とある程度見極めながらつきあっていると思う。
そして最近、編集者もライターもこの信憑性があやふやなネットの中で検索しほとんどの情報を得ている事が危険でならない。発信者のほとんどは素人なんだから。
僕も間違う事は少なく無いけど、間違った時は痛烈にその責任を感じます。自分の発言はとても慎重に行なわなくてはと思っています。
顔の見えない多くのブロガーはその責任の所在についてはあまり気にしていないでしょう。突っ込まれて荒らされなければいいんではないでしょうか?
アマチュアとプロの違いが曖昧になっています。プロらしさが無くなってきた事が本が面白く無くなり、売れなくなった要因の一部になっているのではないでしょうか?
出版業界を滅ぼそうとしている犯人はもしかしたら自分ではないかという自覚を業界人はもう一度考えてみるべきだと思います。
先日
BACHのHさんに、企業を絡めて本を作りたいと話した時「素人には出来ないしっかりしたものを作りましょう」と言ってくれました。彼もこの状況に危機感を持っているんだろうなあと思いました。