明日から
恵文社ではじまるオーレ・エクセルの展覧会の設置のため妻と京都へ来ています。
昨年2月にスウェーデンに行った際、オーレ氏の版権取得とイベントの話をしました。しかし、4月にオーレさんが89歳で亡くなってしまいました。そういったこともあり、ここまでたどり着くのに1年経ってしまいましたが、やっと形になってほっとしています。
オーレさんは
Pie Booksから出ている作品集が日本語で読め、分かりやすいです。ただ、日本の読者に分かりやすい作品に絞られているので全貌はなかなか理解出来ないでしょう。
昔のデザイナー(特に欧米は)個人事務所を開いている事が多く、大体一人で作品を制作します。だから写真やイラスト、コピーライティングなどマルチに手がけられることが求められていました。オーレさんも同様に多岐にわたる作品を残しています。また、オーレさんはジャーナリストとしても活動し、「
デザイン=経済」など研究所も出版しています。今回、恵文社からはじまり5月末には東京でも開催するのですが、ウチが掲げた展覧会のテーマが「デザインって何?」でした。これはオーレさんの著書「デザイン=経済」でも冒頭に掲げられています。
十数年前、多分
K柳帝さんだったと思いますが、オーレさんの絵本「
エドワードと馬」というのをいろんなところで紹介しました。まだ北欧ブーム前、しかもグラフィックなんかほとんど知られていない国でしたからこれは発見でした。そして、近年前出のPieの本が出版されある程度知られる事となりましたが、どちらかというとこれまではイラストレーションのかわいさがフューチャーされていたといえます。
僕が最初にオーレ氏の事を知ったのは「
コーポレート・デザイン・プログラム」というCIについて述べられた本を見つけたのと、
亀倉さんの編集したトレードマークの本で、一番最初にオーレさんの作品(
マゼッティ社の目をモチーフにしたロゴ)を見た事でしょうか。どちらかというとかわいいというよりはCI系の仕事だったのです。
そんなこともあり、世の中で言われているオーレさんのイメージとはちょっと違っていました。それが今回の展覧会の核になっているのですが。。。
オーレさんの人生の中でアメリカ留学の体験と
ポール・ランドとの出会いはかなり大きかったように思います。
多くの国が第二次大戦後、復興と同時にモダンデザインが取り入れられたのに対し、スウェーデンは大戦に参戦しなかったので、被害はありませんでしたが、復興も無いし、モダンデザインの受け入れも相当遅れました。何も無い毎日が続くスウェーデンを離れ、アメリカの産業の凄さをまざまざと見せつけられたオーレさんのカルチャーショックは凄かったでしょう。また、ポール・ランドはその産業とデザインを融合させたまさにデザイン界のスーパースターでした。
この頃、CIという概念が生まれました。ポール・ランドのIBMなんかはいい例です。CIというとロゴマークをシステム化する風にとらわれがちですが(その部分を含んでいるのは事実ですが)本来、ロゴが変わったところで会社が良くなる訳はありません。本来のCIは僕は内向きの革命だと思います。ここでも何度か話したかもしれませんが、以前やった仕事で、ある会社の利益を5億円上げたいということがありました。ただ、5億円上げるというのは容易な事ではありません。当時、世の中では食品などに不純物が混ざり回収騒ぎが続出していました。僕が関わっていた会社も年間8億円の不良があったのです。であるなら出荷される商品のクォリティを上げれば不良が少なくなり、結果5億円くらい上げる事も出来るのではないかという結論になったのです。つまり、利益を作るのは宣伝を多くしたり外向きのアプローチに力を入れるだけでなく、内部の力を高める事が利益をもたらすということです。不良が少ない事はさらにメーカーのイメージまで向上させる事にもなるのです。
CIは本来こういった意味を持っています。当時のIBMを例に挙げると、製造工場は有名建築家の建てたもの、託児所や社宅、低学歴の社員のための学習システムなどからはじまりオフィスでも時計からエレベーターの階数字、社員食堂で使われる食器から消しゴムや鉛筆にいたるまで会社のためにデザインされています。いい環境で働く社員はモチベーションが上がり、結果的に最大限会社に貢献します。ここまでしてCIです。
でも、最近の企業は予算削減などで直接的に利益にならない部分をカットしてしまいました。結局ロゴをデザインして終わりということが多く見られます。
最近若干の日本の企業が気づき始めました。正社員よりも派遣を重視しコストカットを計っていましたが、正社員より給料や保障が低い派遣社員だとモチベーションも低く結果的に会社の効率やクォリティが下がる事が分かってきたのです。
オーレさんの話からかなり離れてしまいましたが、IBMのようなCIをスウェーデンでも採用したい思いからお菓子メーカー「マゼッティ社」の仕事が始まったのです。IBMほど規模は大きくありませんがCIというものをスウェーデン企業にもたらした功績は大きいです。彼の唱えたデザインは経済と結びつくことは、もういちど現代に考えなければならないテーマともいえます。そういう意味で今回の展覧会の大きな核にしました。
また、オーレさんは63年に家庭のパッケージ展というものを開きました。クラシックなデザインの多かったスウェーデンの食品などのパッケージにモダンデザインを吹き込んだのです。シンプルで明解であることが重要。それが今日みられるシンプルデザインのスウェーデンのパッケージデザインのルーツなのです。
こういった部分を捉えながらもオーレさんの持つ「明解さ」は展示物からも分かりやすく受け取れると思っています。それでは会場をちょっと紹介します。
マゼッティ社のコーナーです。棚にはパッケージやPOP、試作品などが並んでいます。
マゼッティ社の広告類。右の2点はラフスケッチ(原画)です。
その他企業のコーナー、オーレさんが手がけたロゴマーク(試作品も含む)とホテルなどの備品(レストランのメニュー表紙など)
「デザイン=経済」やパッケージ展の紹介コーナー
天井からはオーレさんのライフワークともいえる鳥のイラストを吊っています。
弊社の展開している
オリジナル商品です。グラスセットやエドワードのマグカップなど会場先行で販売しているものもあります。
また、オーレさんの70年代におこなわれた
個展のカタログ(デッドストック)や
サイン入りのものも販売しています。間に合わなかったのですが、この展覧会のためのカタログも今後販売します。
ゴールデン・ウィーク中開催していますので関西方面の方は是非ご覧になってください。関東の方は5月末にやりますので、また告知します。