まだプレス書類がまとまっていないので、正式に発表するのは8月頃になると思いますが、今度11〜12月頃にオークションハウスを立ち上げます。家具などデザイン系のものを中心に出品します。
代表は北欧のものを中心にヴィンテージ家具のディーリングや販売を行っている
エルモルイスのN田さん。僕はビジュアル面のサポート、全体のサポートを
ランドスケープのN原さんがやっています。また更に多くの人たちが関わっているのですが、それは後日。皆、これから書くような現状の日本の態度に不満があり、前から興味のあった仕事です。
これまでお城で使われていた様な装飾家具から
アールヌーヴォーや
アールデコ位までは
サザビーズや
クリスティーズでも出品されていましたが、
バウハウス以降のデザインものはほとんどおまけ程度の扱いでした。オークションとデザインの関係が変化し始めたのは10年ほど前、クリスティーズが20世紀デザインというジャンルを作り小規模ですが独立したオークションを始めたのです。この頃からメジャーなオークションハウスでデザインのオークションが開かれるようになりました。アメリカでは
RAGOや
LAMA、
WRIGHTなどのオークションが当時イームズ・ブームが吹き荒れた日本でも注目されるようになったんです。ただ、ここ最近までこれらのオークションに参加しているのはどちらかというとコレクター系の人で、彼らは市場価値を知っているので無難な金額で落札されていました。
次にこの流れが変わったのが2,3年前。
シャルロット・ペリアンや
ジャン・プルーヴェの家具がコレクターから富裕層のステータスに変化し始めたきた頃です。2000年頃に150万円くらいだったキャビネットが10倍の1500万円くらいになったのです。(現在では3000万円くらい)現在では富裕層や投資家による影響で、もはや使用する目的のデザインから観賞用的な美術品へ変化してきています。
海外のデザインショップとしてまず名前が出てくるのがNYの
moss。ここ数年このお店も変化を見せています。今まではショップ限定商品というと既製品の生地を変えたソファだったりとか、色を特別にしたもらったりだとかくらいのものでしたが、最近は全く新しい商品をデザイナーに依頼して作ったり、金額も数百万円、数千万円クラスのものが増えてきました。家具屋さんといえば売れ残ったり、時期が変わるとセールするのが普通ですが、mossなどこういった強気なお店は売れ残る分だけ値段を上げたりしているのです。こういった面もアートギャラリー化しているのがわかります。また以前も話しましたが、ガゴシアンのようなアートギャラリーがデザインものを取り扱う現象も増えています。
アジアでもこういった流れに大きく対応しています。中国や韓国の富裕層はすでにこういった家具やアートを世界から買い集めています。では日本はどうかというと、全然ダメ。ここんとこのポンド高、ユーロ高を見ての通り、デザイン・アート業界に限らず日本は世界の大きな市場の流れに取り残されている状態です。円の価値が下がりっぱなし。今だけ円安だろうと思ってるかも知れませんが、世界の状況を見ていくと更に円は下がっていきそうな感じがします。世界中のデザイナーを日本のメーカーは起用しているのに、海外の人はそれの買うすべどころか存在すら知らなかったりします。
IDEEなんかは海外ではすでに存在しない会社と思われており、今お店に売っている商品が海外で10倍以上のプレミアがついていることを内部の人も知らなかったりします。
上の写真は2002年のクリスティーズ『20世紀の重要な装飾芸術』のカタログです。表紙は
クラマタのミス・ブランチ。
コクヨが販売していたときは200万円でしたが、落札価格は千数百万円でした。
これは昨年6月のサザビーズ『20世紀の重要なデザイン』のカタログです。何度かここでも紹介しましたが、表紙に出ている
マーク・ニューソンの
ロッキードラウンジが1億円。これは現代家具至上最高額です。これはIDEEでも販売していました。(確か180万円)僕自身10年ほど前に80万円で買わないかと言われたこともありました。
これは昨年末のサザビーズ『20世紀の重要なデザイン』のカタログです。表紙はオランダの
J.ヴァーホーヴェンの卒業制作“シンデレラ・テーブル”です。20台制作され、その1つがウチの近所の
燕子花別館にあります。落札価格は1千万くらいです。
2003年フィリップスの『20-21世紀のデザインアート』カタログです。表紙は94年の
カルティエ財団のインスタレーションで40台制作された
ロン・アラッドのテーブルで、確か落札価格は500万円くらいだったと思います。現在は1千万円以上するそうです。
2005年フィリップスの『20-21世紀のデザインアート』カタログです。表紙はイラストですが、イギリスの
エスタブリッシュド&サンズがその年に制作した
ザハ・ハディットの“アクア・テーブル”試作品です。これは3千万円で落札。
これも2005年のサタデー@フィリップス『20-21世紀のデザインアート/現代美術/写真』カタログです。大手のオークションハウスで参加者が高齢化しているのが問題になっていて(次世代の投資家が育っていない)フィリップスでは若い人も参加できるカジュアルな低価格帯のオークションとしてサタデー@フィリップスを立ち上げました。ここで画期的だったのが、美術と家具を同列で売ってしまう(ライフスタイル提案的)オークションで、カタログも今までのいわゆる物撮りではなく、インテリアコーディネートした空間で見せています(フィリップスのHPに写真例がでてます)
今回は大手オークションハウスを紹介しましたが、各会社でも大体年3〜4回デザインだけのオークションが開かれています。こんなに盛り上がってるのに、こんなにデザイン消費国の日本なのに1つも国内にオークションが無いのもおかしい話です。
WRIGHTなんか、数年前1回のセールスが2億ぐらいだったのが、現在は15億近くになっていることからも市場の動きが見えてきます。
今回のオークションはそういった世界の大きな流れに同調していく1つのビジネスであり、デザインや芸術に疎い日本の投資家に対する教育も含んでいます。そして、日本で最近増えている過去の名作(特に物件)の廃棄に対する警鐘と知識の啓蒙とモノの循環です。当面は海外、特にアジアの投資家が参加者のメインとなるでしょうが、日本も世界的な流れについていけるようにしたいと思っています。