たまたま見た番組で、アメリカの航空会社“サウスウェスト航空”の事を紹介していました。この会社のビジネス手法は様々な企業で注目されています。
9/11のテロや最近の原油高の影響で、航空業界の経営は大変なことになっています。そんな中で売り上げを伸ばし、中小企業にも関わらずこの数年でJALの4倍以上の成長を遂げたのがサウスウェストでした。何が変えたのか、そこには柔軟な企業体の確立。そのための楽しい会社作りがありました。
サウスウェストのテディ会長の企業理念がその背景にあります。彼は経費削減、営業強化など普通の企業がやる直接的な収益アップの方法ではなく、まず社員のモチベーションを向上する事を考えました。この会社には企画文化推進室という部署があります。簡単にいうとレクレーション部です。そして毎週社内では運動会やパレードが行われます。常に笑いが絶えません。そして、事務服のようなユニフォームも廃止し、Tシャツ、ジーパンでみんな出勤します。書面での事例や報告などが極端に少ないそうです。これは、会長や社長自ら本人と対面して物事を進めていくからです。企業のトップが一社員と同じ目線で話す事で会社への信頼と自分への自信も生まれてきます。この内部改革が社員のストレスを軽減し、柔軟な対応、柔軟な発想で問題を対処していく事でサービス全体に変化をもたらしたそうです。
収益が上がった直接の理由は利用運賃の値下げです。でもただ値下げしただけでは一過性のことになりかねません。そこに大事なのはフレンドリーなコミュニケーションでした。アテンダントはみんなフランクに乗客に話し、時には笑いも生みます。この親しみが価格競争の中で勝ち残る一つの要因になりました。
中小企業は大手の利権にはかなわず、予約センターなどからサウスウェストは締め出されました。普通の会社だったら存亡の危機です。ここで柔軟な頭になっていた社員がレクレーションの中でいいアイデアを生み出します。それがインターネットによる予約システムです。これによって今は当たり前になった予約システムが確立したんです。
また9/11のテロ以降アメリカではセキュリティチェックが厳しくなり、乗客のストレスもピークに達していました。そこでまた社員のアイデア。スーツケースを開けたとき、事前に用意した特大パンツを広げて『これは誰のですか?』と上の写真のように叫びます。ピリピリした現場には笑いがもれ、誰もが暗い気持ちになっていた空気が変わりました。
こういった社員個人個人の柔軟な対応は企業の姿勢、つまり笑顔を会社に作りストレスや緊張を和らげることにあります。緊張感ある場では誰も自分の発言を躊躇します。笑いの中で発言をしやすい環境を作る事で、会議が有意義に変わったいった実例も番組ではあげていました。会社は社員によって成り立っている事を忘れてはいけません。
昨年AXISで開催したブラニフ展ではそこを伝えたかったんです。最近の企業はロゴをリニューアルしただけで、売り上げが変わると思っている。それは表層の部分でしかありません。ブラウンは50年前ロゴを一新しました。でも、変えたのはロゴだけではありません。今のアップル社のような斬新なプロダクトを生み出しました。でもそれも見えるところ。社屋、工場を有名建築家に手がけさせ、社員、工員の環境を向上させ、それによりモチベーションを上げさせました。モチベーションが上がると作業効率が上がったり、不良が減ったりします。
僕も以前企業のモチベーションアップの思索の仕事をしました。メーカーにとって売り上げを5億円上げる事は大変です。その会社は不良損害が年間19億円ありました。僕はプラスをよりプラスにしていくより、マイナスをプラスに返る方が簡単にできるんじゃないかと思い、モチベーション向上によるクォリティアップの内部キャンペーンを企画したんです。思った通り不良は減り、売り上げも上がりました。さらに『あそこの商品は不良が多いよね』という噂も減り、イメージもアップしたんです。
ブラウンは50年前からそれを実践していたんです。実際ドイツの工場に行くと、みんなが誇りを持って仕事をしていました。工場の隅には身障者に機械の操作を教えるトレーニングセンターもありました。また、僕自身今回の仕事で知った事が多くありました。会場でも展示・掲示したんですが、例えば社内に掲示するレクレーションなどのポスターがとてもかっこいい。たとえ社員だけであってもクリエイティブには妥協しないところが伺えます。また資料で知ったのですが、小学校とか中学くらいの最終学歴しかない工員などのための高等教育の無料スクールなどもあったようです。
一番驚くのはノベルティでした。何でもないただの既製品、例えば火縄などを笑えるウィットに富んだ付録のブックレットで紹介します。その中には火の歴史から火縄の有効利用の仕方(例えばネクタイとか)を紹介しています。これを銀行やクライアントに配っていたそうですが、普通の人が考えるとこんな物なんで配るの?となるでしょう。でも深読みするとそこには企業の姿勢、哲学的なメッセージすら含まれているのです。出なかったら融資先に配ったりなんてしません。その他にもブラウンには驚くようなことがありました。それはおいおいお話したいと思います。
ある意味ブラウンの歴史的なプロダクトは他にも見る機会があるだろうし、資料になる本はたくさん出ています。僕たちプロジェクトチームが本当に伝えたかった事はそこにあって、それは現代の企業に向けた、物作りに関わる人達に向けたメッセージでした。
今、内部の人間が変わったら会社が変わると思っている人は少ないと思います。でも、そこに会社をよりよくする要因と、物を作り続けるだけでない成長の一因があるように思います。