待ちに待った『
悪魔のいけにえ』のスペシャルDVD BOXが発売しました。このDVD、6月8日に発売予定でしたが、パッケージなど版権元ともめて延長になり、今日やっと販売になったのです。
BOXにはオリジナル版、テレ東で放映された日本語吹き替え版、没テイク、メイキングなどの3枚セットとブックレットが入っています。
僕が初めてこの映画を見たのは小学生方角年の頃で確かテレ東で放映されたものです。それまで『
オーメン』やら『
エクソシスト』やら俗にいう“ホラー映画”は見ていましたが、この映画は何か違いました。何が違うのかその頃は分からなかったんですが、今ははっきり分かりました。その恐怖に近い事をブックレットで柳下毅一郎氏が書いていました。
ヒルビリーという言葉を聞いた事があるでしょうか?音楽の世界では有名です。R&Bが黒人の低所得労働者が作った音楽であれば、その白人版がヒルビリーと言われます。アメリカ南部アパラチア山脈地帯で生まれたのがカントリー&ウェスタン。1920年代頃までヒルビリーと呼ばれていました。こういった音楽のジャンルでしかほとんど知られていませんが、ヒルビリーとは貧農の『田舎者』や『山猿』を意味する差別用語です。ヒルビリーがいつ頃生まれた言葉か定かではありませんが、『NYジャーナル』1900年4月23日号の記事がヒルビリーという存在を知らしめたと言われています。
そもそも今のアメリカは、アングロサクソンが新境地を求め、300年近く前にアメリカ大陸に移民してきたイングランド、アイルランド、スコットランドの人たちが作ったのですが、みんなに意欲があった訳でなく、新しい地に移民しても結局何も変わらずに極貧の生活で自給自足で生活をしていた人も多かったのです。そういった人たちは近親婚、幼児婚を繰り返しながら教養もモラルも無く、100年以上も山奥でひっそりと他の文化と隔絶されて生活を営んでいました。柳下氏のコラムの中で、映画などによるこのヒルビリーの発見が文明に住むアメリカ人にとって恐怖だったと書いています。
1940年代以降、ヒルビリーは野蛮な地域ではなくなってしまったけど、今アメリカで増えているホワイト・トラッシュ(白人の貧民層)は収入源としてイラクへ兵士として志願し派遣されている。そしてある一部の人間はイラク人捕虜を拷問したり、無差別な殺戮を繰り返しているのだからヒルビリー時代と変わらないのかもしれません。
前置きが長くなってしまいましたが、『悪魔のいけにえ』に登場する一家はまさにヒルビリー的な生き方をしていて、僕が幼少の頃持っていた恐怖は、非科学的なオカルト映画ではなく、モラルの無さから人殺しも楽しんでやってしまうような現実的に存在しうる世界に対しての恐怖だったのだろうと思う。ヒルビリー的ではないけれど同じような恐怖は同じ頃に見たスピルバーグの映画『
激突』にも感じた。
『悪魔のいけにえ』はホラー映画の巨匠
トビー・フーパー監督によるもの。初見からファンになってしまい、『いけにえ』のキャストのサインを集めてしまったものです。
有名な話ですが『悪魔のいけにえ』はエド・ゲインという実在の犯罪者をモデルにしているといわれています。エドは極度のマザコンで、死体を掘り起こしては皮をはいでミシンで丁寧に縫ってはマスクや着ぐるみを作っていたそうです。それは母と同化する行為で、この異常な犯罪は『悪魔のいけにえ』だけでなく、ヒッチコックの『
サイコ』に登場するマザコンの殺人鬼ノーマン・ベイツや皮で着ぐるみを作る『
羊たちの沈黙』のバッファロー・ビルなどで引用され、エド自体を扱った74年の映画『
ディレンジド』、2000年の映画『
エド・ゲイン』と何度も取り上げられています。
そして監督のトビー・フーパーはテキサスで起った
乱射事件でも現場にいたらしく、それがこの映画作りのきっかけとなったそうです。
僕自身相当な影響をこの映画で受けました。もしかしたら自分も遭遇するかもしれない身近にある恐怖。ニュースで今も放送されるとある町の殺人事件も、もしかしたら自分に降り掛かってくるかもくるかもしれない。僕の中でこの映画はジャンルを超えて上位にあります。
そういえば、MOMAが20世紀の保存すべき名作映画としてこの映像を永久コレクションしているそうです。