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実業家と美術

「芸新」見本誌が送られて来た。今月の特集は国立西洋美術館。いわずと知れたコルブ設計の美術館で、現在世界遺産登録にエントリーされています。このエントリーについてはフランス政府とコルブの財団が近年活動に熱心で各国にあるコルブ作品22コを推薦。その中のひとつが上野の国立西洋美術館というわけです。
 
ところで、松方幸次郎という人物をご存知でしょうか?今回の特集でも取り上げられていますが、松方コレクションとして極めて重要な絵画がここに収められています。
僕が始めて彼のことを知ったのは、幼稚園の頃。西洋美術事典を親に買ってもらい、近代以降の絵画に興味があったのですが、ゴッホの部屋の絵を見た際に、オルセー美術館にあるのに「松方コレクション」と記されていて、この「松方コレクション」って何だ?という疑問から調べた事がありました。
 
松方幸次郎は川崎造船所創設し、莫大な富を得、その資金で世界的に重要な絵画を1万点も買い集めたコレクターでした。彼の父は日本銀行を設立し、総理大臣も務めた松方正義、正義は子だくさんで(養子もいますが)長男の巌は十五銀行頭取、次男の正作は外交官で妻は三菱財閥2代目岩崎弥之助の娘、四男正雄は大阪(阪神)タイガース初代オーナーで息子の三雄の妻は白州次郎と兄弟、六男正熊は帝国製糖社長で娘春子の夫は駐日大使だったエドウィン・ライシャワーなどなど明治期に多い実業家などの政略結婚のような人間関係が見てとれます。
 
幸次郎はあまり知られていませんが、8時間労働制を日本で最初に行なった人物でもありました。このような立場から海軍などの造船における利権などを巧みに使い、利益を得ていました。岩崎弥之助(三菱)、益田鈍翁(三井)、住友吉左衛門(住友)、井上房一郎大原孫三郎芝川照吉石橋正二郎原三渓薩摩治郎八などの財界人がコレクターとして美術品収集をしていたように、松方も西洋絵画の大パトロンとなったのですが、取引銀行の取り付け騒ぎ、造船の低下(時代は航空機に)、世界恐慌によって経営難に陥り、国内にあったコレクションはほとんど差し押さえになったそうです。その後、第二次大戦が起り、敗戦国になったためフランスにあった膨大なコレクションは没収されてしまいました。その後、吉田茂内閣の時にフランス政府と交渉し、400点あまりの作品だけ日本にその絵画を展示する美術館を設立する条件で返還されました。これが現在国立西洋美術館で見る事のできるルノアールやモネなどの作品です。
 
戦前、日本には多くのコレクターやパトロンがいました。神戸に残るライト設計の別荘や、戦災で焼けてしまったゴッホの「ひまわり」などもこういった実業家が作らせたりコレクションしていたものです。しかし、現在こういったダイナミックなコレクターやパトロンは存在していません。資本家はもともと民衆の豊かさによって繁栄をもたらしてきたはず。その繁栄をさらに還元するためにも、もう一度戦前のようなコレクター、パトロンが求められているように思います。
| Art | 23:48 | comments(4) | - |
Beutiful Inside My Head Forever

アメリカのリーマンブラザーズの経営破綻が報道された同日、ロンドンではダミアン・ハーストのオークションが行なわれトータル140億を超える売上げと全く正反対のバブリーなニュースが流れてきました。
 
僕はサザビーズの登録会員でもあるので、豪華なカタログがちょっと前に送られてきていました。多分世界初となるダミアン・ハースト単体のオークションで、このオークション用に作られた作品もみられます。ボックスセットでメインオークションのカタログが3冊、今回の目玉2点をフューチャーした冊子が2冊、それに2シートのステッカー(最近のダミアン作品集などには必ずついてきます)という内容。20年ほど前、僕も参加したアンディ・ウォーホルの遺品オークションのカタログも6冊のボックスセットと豪華でしたが、さらに輪をかけて豪華になっています。
 

その今回の目玉である2作品。牛のホルマリン漬けの方は、エスティメートで17億円〜25億円。大理石の台に、水槽のフレームと牛の頭の上の飾りは18金を使っています。
一方の鮫のホルマリン漬けはシンプルな仕様にも関わらず6億円〜8億円です。
バブルの頃の印象派絵画も異常な金額でしたが、最近の現代美術の高騰もさらに異常さを増しています。特徴的なのは作家本人がオークションに関わっているという事。ハーストといい、ジェフ・クーンズといい、自作の価値を自分で高めているのです。
昔はよく本人が死んでから評価されると言われていましたが、最近は現役(しかも若い)間に評価される時代になったため、作家本人が大金持ちになってしまうこともしばしば。ダミアンも自宅を安藤忠雄に設計してもらうなど、家すらも資産価値を高めてしまうビジネスマンです。
 
この美術高騰の背景には最初にも述べた金融不安が漂っています。投資家が実態を持たない金融商品に不安を持つようになり、実態の有る美術品などを一時的な資金の逃げ場として考えているようです。一種の担保みたいなものですが、彼らにとっては疎い市場なのでこれだけ常識的な価格からずれてしまったり、中でも分かりやすい作家に集中したりでしているのです。もう1つの理由は原油高騰。最近アートを購入している国としてアラブ系とロシアが挙がってきています。どちらも石油産出大国で、原油の利幅で購入しているというよりは、石油資源の有るうちに資産をシフトしておきたいという意識の方が高いようです。ただ、彼もこの高騰ぶりには少々困惑しているようで、バブルがはじけた後、自分の商品価値が劇落するのを防ぐために、作品のあいまいなアート価値よりも誰でも分かる原価価値を上げる事が傾向として見られます。
例えば高級大理石を使ったり18金を使ったりするのはマテリアルの価値は安定しているからなのです。20億の作品が5億円になってしまう可能性がありますが、こういう風にもとのマテリアルが15億かかっていたら、その近辺で下落価格は安定するのです。
上の3冊のカタログも同様、表紙にはダイヤをふんだんに使った作品が紹介されています。ダミアンの最近の作品の傾向はこのダイヤを使った作品が増えている事。これそこ価格を安定に導く下落防止策といえます。
 
もともと仲は良く無いと言われているオークションハウスとギャラリーですが2月のバレンタインにはサザビーズとガゴシアンが共同でオークションをやったりと連立政権のような異常な事が起っている美術業界。金融不安が続く中、当分この勢いは続きそうです。

| Art | 23:45 | comments(0) | - |
gg Lock Art Festival

週末の30日と31日、横浜のBank Art Studio NYKでggのラストイベント「gg Lock Art Festival」が開かれます。(参加アーティストやスケジュール、入場方法など詳しくは「」内をクリックしてください。)
 
31日の17:00から僕の進行により、BluemarkのK地さん、北海道のアート教室「まほうの絵ふで」のH田校長の三人でトークショーをおこなう事になりました。
テーマは美術、地方、教育です。今らしい、そして僕自身も大きく興味のあるテーマです。
下打ち合わせ無しのぶっつけ本番セッションなので、どんな話が出るのか喋る方も楽しみです。
 
このイベントで特に同じ日の13:30から行なわれるカリスマ結婚カウンセラーD達さんのトークショーが気になっています。
最近、インターネットの結婚相談が多くなっています。会社にもよりますが、大体のネットの結婚相談所は入会金を支払い、希望に合った人のデータを入手出来ます。そして、成功・失敗に関わらずその都度報酬を支払います。
また、今まで多かったリアルの結婚相談所はこれも会社にもよりますが、入会金を払い、お見合いをし、成功した時に報酬を多く取る方法を採用しています。
この仕組みで気づきませんか? ネットの結婚相談は失敗すれば失敗するほど再チャレンジになり、その都度報酬を払うので、上手くいかない方が儲かるのです。
 
それでデータ。パーセンテージは忘れてしまったのですが、初対面の希望の人と上手くいく可能性は数%(10%以下)だそうです。大抵、理想の人と一緒にいたい人が違うそうで、ネットの場合、理想の人とだけ組み合わせられるので、毎回初対面の希望の人と会うという事は、常に数%という確率のお見合いをさせられるわけです。ってことは、ネットだとほぼ上手くいかない。=会社はがっぽがっぽ儲かるという図式です。
一方、お見合いで会う事は仲介人が日頃のノウハウを駆使してお互いの接点を見いだすやり方を採用しているので、成立する確率は10倍になるそうです。
D達さんというのはこのお見合いで数千人(だったか)を結婚させたというまさにカリスマなのです。
15年近く前、僕がインターネットをやり始めて現在を見てみると劇的に便利になりました。物理的なものは大体ネットでどうにかなります。ただ上のようなデータを見てみるとネットではどうにもならないことも多々あります。
僕もアナログ時代からこの前紹介したようなデータ収集を行なっていた関係で、ネットでは到底見つけられない情報を今でも入手出来ます。たまに情報が欲しくてグーグルで検索しても1件も出て来ない事が多々あり、まだまだネットが未熟だと思う事があります。いつも考えるのがこの感性をネットで検索する方法はないだろうか?ということです。でも、もしかしたらその部分は唯一リアルで体験するために残されたものなのかもしれません。人間の脳はコンピュータがいくら頑張っても追いつかないように、体験という部分には未知の可能性が広がっています。
 
カリスマ結婚カウンセラーもその男女の心理を人より多く知ってしまった職業です。僕は無意識を意識的に探求しています。だからこそ、こういった職業の人たちの仕事や考えが凄く興味があるのです。
| Art | 23:15 | comments(0) | - |
家政婦は見た

僕はフェルメールの絵を見る度に「家政婦は見た」と思ってしまう。ある日常の一瞬を切り取ったような場面構成。きっとフェルメールが使っていたカメラオブスクラが覗き見ている感覚を与えているのだと思うけど。

16世紀末にオランダがスペインから独立し、17世紀はじめには東インド会社が設立。オランダが最も繁栄していた時代にフェルメールは生まれている。でも、フェルメールは借金地獄だったようだ。彼の家には一枚も絵が(財産が)無いといわれ、フェルメールの死後すぐに奥さんは破産申し立てをおこなっている。
そんなフェルメールの時代に流行った絵画が風俗画でした。昨年、国立新美術館で行なわれた『フェルメール《牛乳を注ぐ女》とオランダ風俗画展』同様、この時期はそれまで主流だった宗教絵画やパトロンのための肖像画以外に、一般市民の女性の生活場面をモチーフに描く事が多かったのです。オランダはプロテスタントが多く、質素で慎ましい生活を美徳としていました。良き妻は勤勉で清潔でなければいけない。こういった道徳の押しつけのように良き女性像が描かれ、一般家庭に掛けられて日々戒めていたようです。なので、フェルメールの絵も比較的掛けやすい小さいサイズが多いです。20世紀はじめ、フェルメールの「牛乳を注ぐ女」が海外に流出しそうになった時も、国費で買取りそれを防いだ逸話があります。「牛乳を注ぐ女」こそ勤勉で清潔なオランダ女性の理想像であり、オランダの美学と絵画がシンクロしていたのでしょう。それにしても、オランダは古くから国家予算の中にアートが入っています。こんな国に日本が芸術でかなうはずがありません。
 
そんなことで思い出したけど、オランダと日本の貿易が始まって400年だそうで、今年と来年はオランダ年としていろいろ行事が行われるそうです。
貿易と言えば18世紀はじめに書かれた「ガリバー旅行記」の中で、実在する国としては唯一日本が出てきますが、ガリバーはオランダ人にやっている踏み絵を免除してくれと皇帝に頼み込みます。それは江戸時代の鎖国でオランダ人と貿易していたわけですが彼らはクリスチャンにも関わらず、貿易(金)のために踏み絵を堂々と行なっていたことを痛烈に批判しています。
フェルメールが亡くなる頃にはイギリスとの何度かの戦争で相当国力が衰退して、イギリスに天下を取って代わられます。その後しばらくはイギリスに相当酷いいわれようだった事がわかります。
 
フェルメールを含め、オランダ絵画の良さはライティングにあります。
ホントホルストヤン・ステーンレンブラントなど。彼らは光と影を絶妙に扱っています。特にフェルメールの窓から差し込むやわらかい光は平地のオランダ独特の日差しの角度です。(普通より低い)

ゴッホはだからこそアルルの強い日差しに憧れたのだろうし、モンドリアンは地平線まで続く運河や道を平面的に捉えただろうし、コントロールされた水の流れによってエッシャーは不思議絵を思い浮かんだのでしょう。
いつの時代も、風土や文化が生み出されるアートと密接に絡んでいる事を感じさせます。
 
東京都美術館では今、フェルメール展をやっています。過去最高の7点見られるそうです。会期中には行ってみたい。
| Art | 23:06 | comments(0) | - |
GOYA

3ヶ月に1回持ち回りの連載コラムが載った掲載紙が送られてきました。特集はゴヤ。
 
チャップマン兄弟を知ったのはYBAというイギリスの新世代の現代アーティストを知った90年代始めの頃だったと思います。そして、96年には恵比寿のP-houseというギャラリーで個展もおこなわれ観に行きました。ダミアン・ハーストの作品同様ショッキングなものが多かったのですが、チャップマンの作品はどこか昔の記憶に残っている感じがしていたのです。
ロンドンのホワイトキューブで観た「アポカリプス」からはじまり、サーチギャラリーで観た「HELL」の展覧会の時、廊下に並んでいたエッチングに手彩色を加えた連作を観て気づいたんです。これって「ゴヤだ!」って。
 
ゴヤの作品に『戦争の惨禍』というエッチング連作があります。銃剣で突き刺され血を吐いた兵士、両腕を切断され、木の枝に突き刺された死体などかなり酷いもの。ゴヤが活躍していた時代はまだ、宗教画や貴族の肖像画、がんばって日常の生活を描くのがやっとの時代なので、スペインの惨劇を戦場まで行って描いた、ジャーナリスティックでリアリティの死の世界は相当アバンギャルドなことだったでしょう。作品に繰り広げられる悲惨さは今の時代でも感じられます。この時代、英雄の勇敢な姿(例えばナポレオンの肖像画)みたいな戦争を美化した絵画が多かったので、こういったリアリティはタブー視されていました。今でも、戦場に飛び散った手足なんかはテレビでは放映されません。そういった偽善化された世界、つまり観たく無い蓋をした部分をさらけ出すのが、チャップマンの手法でもみられるんですね。チャップマン兄弟ってさらにフィギュアを作ったり、アンティーク風に見せたりそういった細かい作業が好きだから、彼らのエッチング作品も、まるでゴヤが活躍していた1800年代始めの作品の様です。
例えばこんな感じ

また、チャップマンの作品には同じくゴヤの「ロス・カプリーチョス」に出てくる小悪鬼に似ているキャラクターも多く登場します。
 
決定的なのがはじめてテムズ川沿いにオープンしたてのサーチギャラリーに行った時に観た「Great Deeds! Against the Dead」という作品。これです。

 
これって、ゴヤの同じく「戦争の惨禍」の連作の中の1枚にある作品でした。

 
ゴヤの批評性は現代のチャップマンに受け継がれています。
歴史的符合をみた頃からチャップマンは目が離せなくなったのです。
そして、少しですが作品も買うようになりました。
日本ではなかなかお目にかかれないのが残念ですが。
 


| Art | 23:44 | comments(5) | - |
ターナー・プライズ

GW真っ最中にも関わらず、森美術館で始まった「英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展」を観に行ってきました。
音楽のグラミー賞や映画のアカデミー賞のようにイギリス現代美術を代表する話題の賞で、ターナーとは19世紀初頭に活躍したイギリスのロマン主義画家J.M.W.ターナーの名前をとった物なので、アカデミー、グラミーよりはトニー賞とか芥川賞とかに近いかもしれません。最近では賞の模様をテレビ放送していることもあり、イギリスでは話題のイベントらしいです。現地の事情はあまり知らないのですが、僕も第4回くらいから気になって、毎年秋の発表を気にしています。
 
80年代のサッチャー政権の時、彼女の押し進めていたネオリベラリズムはイギリスの経済を復興させ、富を得た人たちは文化的な部分にも着手しました。テート美術館を中心に新しいパトロンのあり方などが提唱され、それがこのターナー賞の立ち上げのきっかけにもなりました。日本でも小泉政権の時からネオリベラリズムが浮上しましたが、文化的な着手は一切されていませんでしたね。森美術館は出来ましたけど。
 
なんと言っても僕が1番印象的だったのは90年代のYBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)の登場でした。ダミアン・ハーストなんかはその中でも有名でしょう。
今回の展覧会の目玉はなんと言ってもそのダミアンの作品「母と子、分断されて」という親子の牛を真っ二つに切ってホルマリン漬けした作品。今回はオスロの美術館蔵のものでしたが、僕もサーチ・ギャラリーで同じ物を見た事があります。ダミアンは生と死をテーマにした作品が多く、これも切断された間を歩く事で、生と死の境界線を認識し、疑問符を投げつけるというもっともらしいコンセプトはあるのですが、表現があまりに過激なため今でも賛否両論あります。
 
今回の展覧会は、こういった日本初お目見えの話題作品もあり、初めて見る人には刺激的だったと思いますが、実物と物量も圧倒的に多いロンドンのギャラリーやミュージアムを見学した経験がある人にはちょっと物足りない気がしました。僕も何度も見ているので新しい感動は無かった。それよりも、ターナーを獲っていない大物、例えばチャップマン兄弟トレーシー・エミンなんかの作品を見たい気がします。

今、ポンドが高いからイギリスに行く気はあまり起らないけど、V&Aとかデザインミュージアムとかテートとかハシゴするだけでも凄く刺激を受けるので、またタイミングをみて行きたいです。
| Art | 23:34 | comments(3) | - |
Goth

横浜に行ったついでに横浜美術館でやっている『GOTH展』を見てきました。
個人的にはMOTでやっていたSpace for your futureや森美の六本木クロッシングなんかよりも良かった。Gothという分かりやすいテーマだったからでしょうか?
 
Gothといってもゴシック調なんかの歴史から現代のゴスロリみたいな物への系譜を紹介しているのかなあと思っていたら、本当に最近のGothだけだったので驚き。個人美術館ならまだしも、公的なところでここまでやるとは思っていなかったので。
 
ゴシックというとルネッサンス前の様式なんですが、この言葉はルネッサンス以降に言われた名前です。未開の森の中を歩いているような不気味なコネコテの装飾で、ルネッサンスの頃の洗練されたクリエイターにとっては、不気味で猥雑な物=野蛮=ゴート人で、そのゴート人を差別する用語として使われました。ゴート人はドイツあたりの先住民族で(北欧もそうだという説もあります。現にスウェーデンのヨーテボリと言う地名はGoteburgと書き、ゴートの土地が由来です)文明が栄えたローマ人にとっては原始的な生活をしている野蛮な民族だという認識が強いのです。ですので、ゴシックと言ってもゴート人が作った物という意味でなく、ゴート人が作ったような野蛮でダサイものという意味なんです。
 
もともと宗教の概念は原始時代に生まれました。自然に生える作物や動物を追いかけ食していた人たちにとって、日々変化する状況(収穫の有無)は脅威だったと思います。でも、自分たちの生まれる前からどんなに状況が変わってもそこにあるもの(大きな岩や大木、そして沈んでもまた昇る太陽)は尊敬に値し、そんな自然の崇高さを讃えるところから始まっています。今でも地方に行くと岩や大木をご神体として奉っているところは多いですよね。文明が発達する頃になると例えばエジプトでは太陽と王が同等に扱われるようになり、それが後に偶像崇拝へと変化します。
だから、特にカトリックが世界を支配していた頃にはこういった壮大な自然の力は最大の脅威であり、そういう物を崇拝している人たち(多神教)が本当は怖かったんだと思います。ずっと後ですがサルトルの『嘔吐』のように、理性的な人格構成をされた社会の中で本能のままに自由に伸びる大木は受け入れたく無い恐怖だったに違いありません。
 
ゴート人にとってはとんでもないとばっちりだったと思いますが、現にローマはゴート人によって滅ぼされたので、そんな恐怖もあったのだと思います。
ただ、少なからずドイツやスウェーデンには恐怖を感じてしまうものがあります。
グリム童話をそうですし、スティッグ・リンドベリの絵付けのかわいさの中にもよく見ると気持悪い感じがすることがあります。スベンスク・テンのヨセフ・フランク(彼はオーストリア人ですが)のテキスタイルもツルや葉脈が血管のようになっていて、恐さを感じる事があります。
 
かわいいけどグロい。綺麗だけど怖い。こういった2面性を持ち合わせているのがGothの本質なんだと思います。実際はかなりグロの方に寄ってるんですが。
ゲアハルト・リヒターの作品で髑髏と火のついた蝋燭を描いた物があります。
同じモチーフでロバート・メイプルソープの写真もあります。というか、中世くらいから静物画ではとりわけ髑髏や蝋燭などが描かれています。どちらも不気味な感じがするんですが、モノの瞬間を切り取り、儚さを表現することが本質的な部分です。だから人間の行く末のある髑髏もいつかは消えてしまう燃えている蝋燭も儚さを表現しているのです。そう考えると、ゴスロリの美学は儚き物へのあこがれなのかもしれません。

今回の展覧会では過激な表現や性的な表現が多く見られましたが、こんな部分を許容する公的な美術館があることが嬉しく思いました。

写真はDr.Lakraというメキシコのアーティストの作品です。入れ墨の彫師でもある人物ですが、彼の作品が欲しいと思いました。日本の浮世絵の関取の体にタトゥーを書き込んでいます。物欲とは別に、他のアーティストもみんな良かったです。
| Art | 23:13 | comments(1) | - |
アートギャラリーのデザイン事情

BRUTUSの最新号が届きました。先日のオークションのレセプションの際にタロウナスギャラリーのN須さんと対談したのが掲載されています。
 
ギャラリストで知人は多いんですが、ここまで突っ込んだ話をしたのは初めてで、アート側の現状などとても興味深い話をする事が出来ました。
最近アート系の業界でもデザインに興味を持ち始めているところが増えている事は何度かここでも話しましたが、N須さんも建築家の青木淳さんにスタンドバーの家具を作らせたりしており、ヴィンテージに関する知識もかなり持っています。
 
ギャラリストの人と話すとよく出てくるのが、コレクターのオタク性。高額な絵を買うのに飾りもせず、またお金持ちのはずなのに小さなアパートに住んでいるという人もいるらしいのです。つまり、アートの美を探求するのではなくて集める事に意義がある。海外もそういった人はいるけど、非常に日本人らしい習性だなあと思います。まあ、趣味はその人の勝手なんだけど、日本の場合私蔵してしまう人が多くてもう少し循環していくと面白いと思うんですけど。
| Art | 23:16 | comments(0) | - |
Japan und der Western

ベルリン郊外のヴォルフスブルフという街にある美術館で面白い展覧会がやっていて、見たいんだけど残念なから行く事が出来ません。それは、日本と西欧のミニマリズムを対比させた展覧会です。
 
ドイツと日本は似たところがあります。ドイツ語には日本語のように情緒を表現した言葉があったりするし、ミにマル好きな性質も感じが似ています。でも、突き詰めていくと日本の方がもっと曖昧な部分が強い事に気づきます。
 

これはバウハウスの建築模型と日本家屋の写真を比較したコーナーです。日本家屋はシンプルながらも庭に向けて無限に広がる“開放感”があります。一方バウハウスはもっと理性的に空間を考えています。ドイツのモダンはLess is moreから始まっています。削っていくことによって本質を見ていくという事。日本では侘び寂びといいます。侘び寂って感覚的でなんだかよく分かりません。でも概念は頭のどこかでは理解していて、それが人間の内面に向けて無限に広がっていきます。
 
もっとよく分かるのがこれ

ドナルド・ジャッドと楽焼きの比較。同じように連続性がありますが、ジャッドは1つのフォルムをコピーしたもの。楽焼きはこね方、焼きの表情によって全く違う物の集まりです。西洋の理性と日本の感性を顕著に表しています。
 

これも面白い。運慶の掛け軸とサイ・トォンボリの立体作品の比較。トォンボリって日本的な感性を持ってますよね。
 
全体的に西洋の作品は20世紀以降のモダンアートを主軸にしていて、装飾を排除していく意図が感じられますが、一方日本の作品は江戸時代以前のドローイングや工芸が主体になっています。それも人間が作った感情的部分が強くあらわれています。この違いは何なんでしょうか? 副題に“満ちた空” というのが付けられていますが、仏教的概念がそうさせるのでしょうか? 日本人はバウハウスなどシンプルモダンが好きだけど、実は似て非なる物というのがよく分かります。でも、最近の日本のデザインは西欧的なモダンのような感じがするのですが僕も気のせいでしょうか?


| Art | 23:34 | comments(0) | - |
鳥獣戯画
JUGEMテーマ:アート・デザイン

某雑誌で隈さんの手がけたミッドタウンのサントリーミュージアムについてコメントしなくてはならず、予習のために時間を見計らって見に行くことにしました。
ここでは今、国宝の鳥獣戯画の展覧会を行っています。興味も大アリなのでそっちも鑑賞。平日にも関わらず、会場はじいさんばあさんでいっぱい。絵巻物なので長く連なった絵を鑑賞するのですが、じいさんばあさんがなかなか前に進まない。一応背後からも見えるように壁にはスキャンされたものが貼られていますが、やっぱり実物の紙の質感や筆の走りにはかなわない。
鳥獣戯画と言えば平安時代〜鎌倉時代に描かれたものですが、漫画やアニメーションのルーツとしても知られています。台詞なんかは入っていないのですが

口からもやもやが出ていますよね。(何かしゃべっているんでしょうね、漫画のフキダシのルーツです)
お経を読んでいる

こんなのもあります。
 
オリジナルには無いのですが、江戸時代に狩野探幽によって写された鳥獣戯画には高飛びをするスピードを表現する線が描かれてます。

平安時代から始まった時代によって鳥獣戯画はどんどん進化していくのがわかります。
それにしても、探幽の模写も展示されていたのですが、やっぱりオリジナルより全然上手い。筆の走りにしてもムダな線がまったくありません。

3Fには室町時代のギャグ漫画というべき放屁合戦絵巻がありました。

春画なんかでは男性シンボルをデフォルメするんですが、既に室町時代に始まっているんですね。森美術館の『日本美術が笑う』展では河鍋暁斎の江戸時代版放屁合戦絵巻が人気だったそうです。それにしても、日本も世界もお金持ちは下品が好きですね。
 
それにしても、当時の人は見に見えない動きの線やフキダシをどうやって閃いたんでしょうか。仏像もそうだけど、昔の人の想像力は凄い!
内装を見に行くつもりがかなり満喫してしまいました。

ミッドタウンって行く前は、どーせヒルズなんかと同じでしょ。と思ってましたが、初めて行った時も分かりやすく、エスカレーター以外は(お店を回らせるためだと思うけど、フロアごとに反対側にまわらなければなりません)いい感じに動きやすい。21-21のまわりのパブリックスペースも清々しい感じ。今日なんかはあったかかったからベンチで昼寝しているサラリーマンもいました。屋内のカフェは混んでるから、僕たちもプレッセ(スーパー)で飲み物を買って外でお茶しました。個人的にわざわざここに来て買い物したいお店は無いけど、美術館とかちょっとお昼ご飯にくるには好きです。(休日は人が多いので平日がいいです)2時間ばかりの散歩のような感じでしたがとてもリフレッシュできました。
 
| Art | 23:33 | comments(2) | - |
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